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浦和地方裁判所 昭和56年(行ウ)8号 判決

埼玉県浦和市前地一丁目四番五号

原告

小松豊吉

同県同市常盤四丁目一一番一九号

被告

浦和税務署長 小林冨一

右指定代理人

櫻井登美雄

重野良二

長沢幸男

三ツ木信行

戸川忠志

佐藤文夫

右当事者間の昭和五六年(行ウ)第八号所得税再更正処分等取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり、判決する。

主文

原告の請求は、いずれもこれを棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の求める裁判

原告は、「被告が昭和五五年二月二五日付でした原告の昭和五〇年分の所得税の再更正及び重加算税賦課決定の各処分のうち、短期譲渡所得金額五九五万九、〇二二円、長期譲渡所得金額四四七万三、一一四円、所得税額金三五六万五、三〇〇円及び重加算税額金二五万六、〇〇〇円を超える部分を取消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人は、主文と同旨の判決を求めた。

第二当事者双方の主張

一  請求原因

(一)1  原告は、被告に対し昭和五〇年分の所得税につき別表(一)の確定申告欄記載のとおり確定申告をしたところ、被告は、同表更正・賦課決定欄記載のとおりの更正処分並びに過少申告加算税の賦課決定処分をした。原告は、右各処分を不服として被告に対し同表昭和五二年三月七日付異議申立欄記載のとおり異議申立をなしたところ、被告は同表同年六月一日付異議決定欄記載のとおり右各処分の一部を取消す旨の異議決定をした。

2  ところが、被告は、更に原告に対し同表再更正・賦課決定欄記載のとおり再更正並びに重加算税賦課決定の各処分をした。そこで、原告は、右各処分を不服として被告に対し同表昭和五五年四月一五日付異議申立欄記載のとおり異議申立をしたが、被告はこれを棄却したので、原告は、関東信越国税不服審判所長に対し同表審査請求欄記載のとおりの審査請求をしたところ、同所長は、同表裁決欄記載のとおり、右各処分の一部を取消す旨の裁決をしたうえ、昭和五六年九月四日原告にその裁決書謄本を送達した。

(二)  しかしながら、右再更正並びに重加算税賦課決定の各処分(前記裁決によって変更されたもの。以下、本件各処分という。)は、原告が昭和五〇年七月二一日別表(二)順号3の土地建物(以下、これらを本件土地建物という。)を譲渡した際支出した右建物賃借人らに対する立退料を経費として認めず、右譲渡による所得を過大に認定してなされたものであって、違法である。

(三)  よって、原告は、本件各処分のうち、短期譲渡所得金額金五九五万九、〇二二円、長期譲渡所得金額金四四七万三、一一四円、所得税額金三五六万五、三〇〇円及び重加算税額金二五万六、〇〇〇円を超える部分の取消しを求めるため、本訴に及んだ。

二  請求原因に対する被告の認否

(一)  同(二)の事実のうち、被告が本件各処分において原告主張の立退料の支払を認定しなかった事実を認め、その余を争う。

三  抗弁並びに主張

被告の原告に対する本件各処分の根拠は、次のとおりである。

(一)  総合課税にかかる不動産所得、配当所得及び給与所得の合計所得金額 金六三六万五、一〇七円

(二)  分離課税にかかる所得金額

1 原告は、別表(二)順号1ないし4記載の各不動産を、同表譲渡年月日欄記載の日に各譲渡したが、そのうち、順号1、2及び4の資産の譲渡にかかる譲渡所得金額は、次のとおりである。

(1) 短期譲渡所得金額

順号1の土地につき金二一六万八、七七〇円

同2の土地につき マイナス金九万円

(2) 長期譲渡所得金額

順号4の土地につき 金四六〇万九、五六六円

同4の建物につき マイナス金二八一万四、二三九円

2 本件土地建物の譲渡にかかる譲渡所得金額は、次のとおりである。

原告は、昭和五〇年七月二一日訴外関口正行に対し本件土地建物を一括して代金五、六〇〇万円で売却した。ところで、右土地建物のうち本件土地は同四三年一一月一〇日に、本件建物は同四六年六月にいずれも原告において取得したものであるから、本件土地については租税特別措置法(昭和五五年法律第九号による改正前のもの、以下、措置法という。)第三一条が、右建物については同法第三二条が、それぞれ適用されるところ、原告は、右のとおり本件土地建物を一括売却したので、譲渡所得金額の算定に当りそれぞれの取得に要した金額(本件土地につき金二、三六六万二、二一〇円、本件建物につき金一、七五〇万円。)により按分して譲渡価額を短期譲渡収入金額と長期譲渡収入金額とに区分して計算すると、次のとおりである。

(1) 短期譲渡収入金額 金二、三八〇万八、二四五円

(土地建物の譲渡金額)(建物の取得に要した金額)

〈省略〉

(土地建物の取得に要した金額)

(2) 長期譲渡収入金額 金三、二一九万一、七五五円

(土地建物の譲渡金額)(建物の譲渡金額)

56,000,000円-23,808,245円=32,191,755円

また、本件土地建物の譲渡費用金一四四万円についても、それぞれの譲渡収入金額により按分して計算をすると、次のとおりである。

(1) 短期譲渡収入金額に対応する譲渡費用 金六一万二、二一二円

(譲渡費用の合計額)(短期譲渡収入金額)

〈省略〉

(譲渡収入金額の合計)

(2) 長期譲渡収入金額に対応する譲渡費用 金八二万七、七八八円

(譲渡費用の合計額)(短期譲渡収入金額に対応する譲渡費用)

1,440,000円-612,212円=827,788円

以上の事実から、本件土地建物の譲渡所得金額を算出すると、次のとおりとなる。

(1) 短期譲渡所得金額 金六八五万六、二八二円

(建物の譲渡収入金額)(建物の取得に要した金額)(減価償却費)(建物の譲渡費用)

23,808,245円-(17,500,000円-1,160,249円)-612,212円=6,856,282円

(2) 長期譲渡所得金額 金七七〇万一、七五七円

(土地の譲渡収入金額)(土地の取得費) (譲渡費用)

32,191,755円-23,662,210円-827,788円=7,701,757円

3 従って、原告の分離課税にかかる所得金額は、次のとおりである。

(1) 短期譲渡所得金額 金八九三万五、〇五二円

(別表(二)順号1、2の土地及び同3の建物の短期譲渡所得金額の合計額。)

(2) 長期譲渡所得金額 金八四九万七、〇八四円

(順号3の土地の譲渡所得金額)(順号4の土地の譲渡所得金額)(順号4の建物の譲渡所得金額)(措置法31条2項による特別控除額)

(7,701,757円+4,609,566円-2,814,239円)-1,000,000円=8,497,084円

4 以上の事実に基づき原告が納付すべき昭和五〇年分の所得税額を計算すると、総合課税にかかる所得金六三六万五、一〇七円から各種控除額金一五一万二、九〇四円を控除した金四八五万二、〇〇〇円に対する税額は金八三万四、四八〇円、分離課税にかかる分のうち短期譲渡所得の分は金三五七万四、〇〇〇円、長期譲渡所得の分は金一六九万九、四〇〇円、以上合計金六一〇万七、八八〇円から配当控除金一万〇、五〇〇円、源泉徴収税額金五三万六、八三〇円を控除した金五五六万〇、五〇〇円となる。

(三)  重加算税の賦課決定

原告は、本件土地建物を関口正行に対し代金を金五、六〇〇万円と定めて売却したにもかかわらず、右代金を金四、六〇〇万円と仮装した売買契約書を作成し、これに基づき確定申告をした。してみると、原告に対する重加算税額は、国税通則法第六八条第一項に基づき、右仮装又は隠ぺいした所得金額金一、〇〇〇万円に対応する納付すべき税額金二八五万円に一〇〇分の三〇を乗じた金八五万五、〇〇〇円となる。

(四)  よって、被告のなした本件各処分は適法であるから、原告の本訴請求は、失当として棄却されるべきものである。

なお、原告は、昭和五六年一二月二三日の第一回口頭弁論期日において、本件土地建物の譲渡代金は金五、六〇〇万円である旨自陳し、被告において原告に不利益な右陳述を援用したところ、同五七年五月一九日の第四回口頭弁論期日において右譲渡代金は金四、六〇〇万円であって金五、六〇〇万円ではないと陳述するに至ったが、右は自白の撤回に該当するから異議がある。

四  抗弁に対する原告の認否並びに主張

(一)  抗弁(一)及び(二)1の事実を認める。

(二)  同(二)2の事実中、原告が昭和五〇年七月二一日訴外関口正光に対し本件土地建物を一括して売却したこと、本件土地は同四三年一一月一〇日金二、三六六万二、二一〇円で、本件建物は同四六年六月金一、七五〇万円で、それぞれ原告が取得したものであること並びに右関口への売却の際譲渡費用として金一四四万円を支出したことを認めるが、右土地建物の譲渡価格を否認する。

1 訴外関口への本件土地建物の売却代金は金四、六〇〇万円である。

2 原告は、被告が譲渡費用として控除した金一四四万円のほかに、本件土地建物売却の際、右建物の賃借人らに対し、次のとおり立退料を支払った。

(1) 訴外株式会社ビッグライオンズに 金三〇〇万円

(2) 訴外東洋産業株式会社に 金三〇〇万円

(3) 訴外杉山貞子に 金七〇万円

(4) 訴外松岡林に 金三〇万円

以上合計金七〇〇万円。

従って、右立退料も譲渡経費として分離課税にかかる所得金額から控除さるべきである。

(三)  同(三)の事実から、原告が本件土地建物の譲渡代金を金四、六〇〇万円として確定申告した事実を認めるが、その余の事実を否認する。

第三証拠

一  原告

(一)  甲第一ないし第六号証、第七号証の一、二、第八号証を提出。

(二)  証人君塚忠敬の証言を援用。

(三)  乙第一、第二号証、第三号証の一ないし四の原本の存在及び成立を認める。第四ないし第六号証、第一二ないし第一五号証の各成立を認める。第一六号証は真正に作成されたものである。その余の乙号各証の成立は不知。

二  被告

(一)  乙第一、二号証、第三号証の一ないし四、第四ないし第一〇号証、第一一号証の一ないし四、第一二ないし第一六号証を提出し、乙第一六号証は作成名義人以外の者の作成にかかるものであると付陳。

(二)  証人佐藤文夫の証言を援用。

(三)  甲号各証の成立は不知。

三  職権

原告本人小松豊吉を尋問。

理由

一  原告が、昭和五〇年分の所得税につき別表(一)確定申告欄記載のとおりの確定申告をしたところ、被告は同表更正・賦課決定欄記載のとおり更正処分並びに過少申告加算税の賦課決定処分をしたので右各処分を不服として異議申立をしたところ、被告は同表昭和五二年六月一日付異議決定欄記載のとおり右各処分を一部取消す旨の異議決定をしたこと、ところが、被告は原告に対し別表(一)再更正・賦課決定欄記載のとおり再更正並びに重加算税賦課決定の各処分をしたので、原告が昭和五五年四月一五日これを不服として異議申立をしたところ、被告はこれを棄却したこと、そこで、原告が更に同五五年八月四日関東信越国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同所長は別表(一)裁決欄記載のとおりの裁決をし、右裁決書謄本を昭和五六年九月四日原告に対し送達したこと、以上の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  次に、本件各処分の適法性について判断する。

(一)1  原告の昭和五〇年分の総合課税にかかる不動産所得、配当所得及び給与所得の合計所得金額が金六三六万五、一〇七円であること。

2  原告が別表(二)順号1ないし4記載の不動産を同表譲渡年月日欄記載の日に譲渡したこと、同年分の分離課税にかかる譲渡所得金額のうち本件土地建物を除いたものが、次のとおりであること。

(1) 短期譲渡所得金額

別表(二)順号1の土地の譲渡所得金二一六万八、七七〇円

同2の土地の譲渡所得 マイナス金九万円

(2) 長期譲渡所得金額

別表(二)順号4の土地の譲渡所得金四六〇万九、五六六円

同4の建物の譲渡所得 マイナス金二八一万四、二三九円

以上の事実は、当事者間に争いがない。

(二)  次に、本件土地建物の譲渡所得の点について検討する。

1  原告が昭和五〇年七月二一日訴外関口正行に対し本件土地建物を一括して売却したこと、本件土地は同四三年一一月一〇日に金二、三六六万二、二一〇円で、本件建物は同四六年六月に金一、七五〇万円でいずれも原告が取得したものであること、原告は本件土地建物の右譲渡に際し譲渡費用として金一四四万円を支出したこと及び本件土地建物の譲渡価格が金五、六〇〇万円であった事実は、いずれも当事者間に争いがない(もっとも、原告は、昭和五六年一二月二三日の第一回口頭弁論期日において本件土地建物の譲渡価額は金五、六〇〇万円である旨を陳述し、被告においてこれを援用したところ、同五七年五月一九日の第四回口頭弁論期日において右自白を撤回し、右譲渡価額は金四、六〇〇万円であると陳述するに至ったが、右自白が真実に反し、かつ、錯誤に基づいたものと認めることはできないから、右自白の撤回は許さるべきものではない。すなわち、甲第三号証及び乙第二号証、第四、第五号証、第一二号証には、右譲渡価額が金四、六〇〇万円である旨の記載が存し、原告本人尋問結果中にも同旨の供述が存する。しかしながら、原本の存在及び成立に争いのない乙第一号証には、右売買代金が金五、六〇〇万円である旨の記載が存し、また、原本の存在及び成立に争いのない乙第三号証の一ないし四、証人佐藤文夫の証言及びこれによって成立を認める乙第七号証によると、本件土地建物の買主である関口正行は、原告に対し右代金五、六〇〇万円を、昭和五〇年七月二一日金一、〇〇〇万円、同年八月二九日金六〇〇万円、同年一〇月二一日金三、〇〇〇万円及び金一、〇〇〇万円に分割して支払ったこと及び前示乙第二号証は原告の依頼によって売買代金を金五、六〇〇万円とする正規の本件土地建物売買契約書のほかに作成されたものであることを認めることができ、右の事実によれば、原告の主張にそう前顕各証拠を措信することができないからである。)

ところが、原告は他に本件土地建物の譲渡費用として立退料合計金七〇〇万円を支払った旨主張するが、採用できない。その理由は、次のとおりである。

(1) 株式会社ビッグライオンズについて

乙第一二号証、第一六号証には、株式会社ビッグライオンズが昭和五〇年一〇月二一日原告から小松ビル(本件建物)の立退料として金三〇〇万円を受領した旨の記載が存し、また原告本人尋問の結果中には、関口正行から立退料として交付を受けた金一、〇〇〇万円の中からビッグライオンズに対する金三〇〇万円の立退料を支払った旨の供述が存するけれども、前掲乙第七号証及び成立に争いのない乙第一三号証によれば、本件建物一階の賃借人であったビッグライオンズは同年六月ころすでに営業不振のため立ち退いていた事実を認めることができる。

(2) 東洋産業株式会社について

甲第一号証(賃貸借契約中途解約及立退同意書)には、原告は昭和五〇年七月二一日東洋産業株式会社との間において小松ビル(本件建物)の事務所賃貸借契約を合意解約し、東洋産業は同年一〇月二一日までに本件建物を明渡し、原告は東洋産業に対し立退料及び営業保証費用として金三〇〇万円を支払う旨の合意をした旨の記載が存し、乙第一一号証の二(同意書)には、右東洋産業が同年一〇月二一日原告に対し右建物の二階及び一階の各一部の立退及び立退料を金三〇〇万円とすることに同意した旨の記載があり、更に、甲第二号証(確認書)及び甲第六号証(領収書)には、右東洋産業は右同日原告から立退料として金三〇〇万円を受領した旨の記載が存するほか、乙第一二号証の記載、証人君塚忠敬の証言、原告本人の尋問結果中にもこれらに合致する点が存する。しかしながら、証人佐藤文夫の証言によって成立を認める乙第一〇号証及び証人君塚忠敬の証言によって成立を認める乙第一一号証の一及び証人君塚忠敬の証言によれば、右甲第六号証は同号証が領収証用紙として発売された昭和五三年四月四日以降に日付を遡らせて作成されたものであること、東洋産業の代表取締役訴外君塚忠敬は、同五四年九月六日被告の係官に対し、前記同意書の作成及び立退料の授受を否定していた事実を認めることができる。原告本人は、領収証は見当らなかったた昭和五二、三年ころ再発行を得たものである旨供述するが措信できない。

(3) 杉山貞子について

甲第七号証の一(領収証)には、杉山貞子が昭和五〇年一〇月二一日原告から小松ビル(本件建物)六階の立退料として金七〇万円を受領した旨の記載が存し、同号証の二には、同人が同四八年五月五日から同年一〇月二〇日まで右ビル六階に居住していたが、同年八月に住民登録を同人の夫の実家が存する東松山市松山一、八二〇番地に移し、同年一〇月二〇日本件建物売却に際し移転料として金七〇万円を受け取った旨の記載が存するほか、乙第一二号証の記載、原告本人尋問の結果中にもこれに添う部分が存する。しかしながら、証人佐藤文夫の証言及びこれによって成立を認める乙第九号証によれば、右甲第七号証の一(領収証)は領収証用紙として市販された昭和五三年三月一八日以降に日付を遡らせて作成したものであることが認めることができ、更に、原告本人尋問の結果によると、杉山貞子は原告の経営する小松産業株式会社の従業員であって社宅であった本件建物の六階に居住していた事実を認めることができる。

(4) 松岡林について

甲第八号証(領収証)、乙第一二号証には、松岡林が昭和五〇年一〇月二一日原告から社宅立退料として金三〇万円を受領した旨の記載が存し、原告本人尋問の結果中にもおおむねこれに添う供述が存するけれども、証人佐藤文夫の証言によって成立を認める乙第八号証及び前掲乙第九号証によると、松岡林は前記小松産業株式会社の従業員として昭和五〇年六月末日まで右同社に勤務していたが、そのころから住居を朝霞市岡一丁目二一番三四号に有し、本件建物に居住した事実の存しないことが認められる。

(5) 更に、原告は、前示のとおり、本件土地建物の譲渡価格を金四、六〇〇万円、右譲渡に要した費用を金一四四万円として本件所得税の確定申告をしたのであるが、成立に争いのない乙第六号証に原告本人尋問の結果を総合すると、原告は被告の係官から右確定申告について本件土地建物の譲渡価格が金五、六〇〇万円であることを指摘されるや、譲渡価格は金四、六〇〇万円であるが、これとに別に関口正行から右建物に居住していた者に対する立退料として金一、〇〇〇万円を預り、これを株式会社ビッグライオンズ、東洋産業株式会社に各金三〇〇万円、四階の賃借人訴外村田国博、六階の賃借人松岡林に各金一〇〇万円、五階の賃借人訴外石川昭平に金二〇〇万円支払った旨の申立をし、これに添う証憑書類を提出したが、その後松岡林に対する立退料を金三〇万円と変更し、六階に居住していた杉山貞子に金七〇万円の立退料を支払った旨の申立てをしたこと、しかし当時における四階の賃借人は村田国博ではなく訴外星野登一であり、五階の賃借人も石川昭平ではなく訴外佐藤貞男であったことが被告に確知されると、立退料は右二名を除いた合計金七〇〇万円であると主張するに至ったが、右建物の六階は原告が小松産業株式会社に社宅として賃貸したものであって個人に賃貸したものではなかった事実を認めることができ、右の事実に右(1)ないし(4)の認定事実を総合して判断すると、原告の右主張に添う証拠はいずれも措信することができず、他にこれを肯認するに足りる証拠も存しないから、原告の右主張は失当であって、到底採用の限りではない。

2  そこで、本件土地建物の譲渡価格金五、六〇〇万円を、その取得価格(土地については金二、三六六万二、二一〇円、建物については金一、七五〇万円)によって按分して計算すると、土地の譲渡収入金額は金三、二一九万一、七五五円、建物のそれは金二、三八〇万八、二四五円となる。次いで、譲渡費用金一四四万円を右の各取得価格によって按分算出すると、土地の譲渡費用は金八二万七、七八八円、建物のそれは金六一万二、二一二円となるから、右の各譲渡収入金額からそれぞれの取得価格(本件建物の減価償却費が金一一六万〇、二四九円であることは、原告の明らかに争わないところであるから、右建物については、取得価格より右の減価償却額を控除する。)及び譲渡費用を控除して譲渡所得金額を算出すると、本件土地の長期譲渡所得は金七七〇万一、七五七円、本件建物の短期譲渡所得は金六八五万六、二八二円となることは計数上明白である。

それならば、別表(二)順号1、2及び4を含めた原告の昭和五〇年分における長期譲渡所得金額は措置法第三一条第二項に定める金一〇〇万円を控除した金八四九万七、〇八四円、短期譲渡所得金額は金八九三万五、〇五二円となる。

3  前顕乙第六号証によると、原告の昭和五〇年における扶養控除等の額が金一五一万二、九〇四円であること、税額から控除さるべき配当控除額が金一万〇、五〇〇円であること及び源泉徴収税額が金五三万六、八三〇円である事実を認めることができるから、総合課税にかかる所得額から右扶養控除等の控除額を差引き、昭和五〇年分の原告の所得税額を計算すると、総合課税にかかる所得分は金八三万四、四八〇円、分離課税にかかる短期譲渡所得の分は金三五七万四、〇〇〇円、長期譲渡所得の分は金一六九万九、四〇〇円、以上合計金六一〇万七、八八〇円となり、これから右配当控除額、源泉徴収税額を控除すると、原告の納付すべき税額は金五五六万〇、五〇〇円(百円未満切捨)となる。

してみると、これを下廻ってした本件再更正処分(裁決により一部取消し後のもの)は、適法であって、原告主張の如き違法は存しないものといわなければならない。

(三)  進んで、重加算税の賦課決定処分の適否について検討するに、前示認定事実によると、本件土地建物の譲渡代金五、六〇〇万円と原告の申告にかかる右譲渡代金四、六〇〇万円との差額金一、〇〇〇万円は、原告において国税通則法第六八条第一項にいう国税の課税標準等の事実の一部を隠ぺい又は仮装したものというべきであるから、被告はこれを本件土地建物の前示長期、短期の各譲渡収入金額によって按分し、これに対応すべき税額金二八五万円を、重加算税の基礎となる税額とすることができたのであるが、本件においては、これを下廻る金二五七万円をもって重加算税の基礎となる税額としたことが明らかであるから、右重加算税の金七七万一、〇〇〇円の賦課決定処分も適法であって、原告の主張するような違法は存しない。

三  以上の次第であるから、原告の本訴請求はすべて理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長久保武 裁判官 大喜多啓光 裁判官 坂野征四郎)

別表(二) 譲渡資産の明細

〈省略〉

別表(一) 課税処分の経緯(昭和50年分)

〈省略〉

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